「こぐこぐ自転車」
「人間はなぜ結局は真面目に自転車をこぐか、というと一度自転車にまたがって走り始めたら、あとはこがないと自宅に帰れないからである」
滅法愉快な本に出逢った。
……と、ちょっと古風な書き出し(?)にしてみたのは、この本「こぐこぐ自転車」の著者が72歳であることに敬意を表して。これ、ここ数年読んだ中でも断トツにおもしろい自転車本だよ。
ひとことでいうならば、70歳間近の爺さんが突如として自転車に目覚め、いつのまにか所有台数が6台に増え、暇があるのをいいことに同年齢の仲間たちと北海道ツーリングをするようになるまでの記録である。
若いころから自転車に親しんでいた人ではない。定年間近のある日、「家から職場(大学)まで行ってみよう」とふと思い立ったのがきっかけなのだ。
自転車について、行った場所について、東京の道路事情について、そしてツーリングでの体験が、独特の文章で語られていく。古希を超えた自転車乗りであることをひけらかすでもなく、かといって卑屈になるわけでもなく、淡々とした記述なのだが、読んでいてついつい笑ってしまうところが随所にある。
この人、基本的には偏屈な頑固爺さんなのだろう。皮肉屋だけどユーモアがあって、決してイヤミじゃない。そのバランスが絶妙なのだ。こんなふうになれるのなら、年をとるのも悪くないかもしれないなんて思ってしまう。
ツーリングに出かける際の必需品として「心臓と前立腺の薬と痛風の予防薬」「入れ歯」が挙げられているところも、この年齢の人ならでは。それに、何度も転んで歯を失い骨折もしているのに、それでもへこたれないところもカッコいい(もし自分が70を過ぎてから、自転車で木に激突して鎖骨を折ったり、縁石でコケて残り少ない歯を2本も折ったりしたら、その後はたして自転車に乗り続けることができるだろうか)。
個人的に驚いたのは、著者がdiossで2台も自転車を買っていること。読んでいていきなり、自分がお世話になっている自転車店とそのご主人(と「小僧」)が登場するものだから、ビックリしてしまったよ。店でのくだりを読んでいたら、その場面が浮かんでくるようで、ここでも笑ってしまった(著者は杉並区在住だが、友人が東村山に住んでいるため利用するようになったらしい)。
「冬になると人間は、年を越してからやがてまたやってくる来年の夏のことを思うのである。この一年、自転車をこぎ続けてきた私のなかに、来年の夏は、どこか、もう二度とうちに帰ってこられないぐらいはるか遠くまでこいで行きたい、という思想が芽生えていた」
この本に感情移入できるだけでも自転車生活をしていてよかったと思えるくらい、痛快な自転車エッセイ。必読。
最後に、僭越ながら著者の伊藤礼さんに言いたいことがひとつ。
4年前に購入して、10回は転んだのに(うち5回は頭部を強打)まだ使っているというヘルメット、さすがに買い換えたほうがよろしいのではないかと思いますが……。
| 固定リンク







コメント
取り寄せて読んでみました。
同じ内容を素人が書いたらイヤミになりかねないところをそう感じさせないあたりが「技」ですね。
北海道ツーリング、もとい「北海道自転車旅行」をテーマにした講演が来月あるようです。
http://www.geocities.jp/silkroad_tanken/tp08_teireikai_annai.htm
「伊藤整」なら聞いた事あるな〜と思ったら、その息子さんなんですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/伊藤整
投稿: waju | 2006/02/06 22:06
wajuさん、コメントありがとうございます。
わざわざ取り寄せたのですか。すごい! でも、そんなに損はしなかったでしょ(と押し付けてみたり(笑))。
講演会のご紹介、ありがとうございます。ぜひ行ってみたいけれど、この日は法事(何だか法事ばっかりやってる我が家なのです)。残念です~。
投稿: つぴぃ | 2006/02/07 19:15