「セカンドウィンド Ⅰ」
川西蘭の「セカンドウィンド Ⅰ」を読んだ。
「ぼくは自転車に乗る喜びを知った。自転車に乗らなければ、見えない世界を見た。だから、これからも乗り続けたい」(P.358)
主人公は、中学生の溝口洋。祖父と2人で暮らしている。彼の宝物は、村役場の競売で競り落としたスポーツタイプの自転車。これに乗って、近所の山岳コースを走ることが唯一の楽しみだ。ある日、峠を下っている最中、洋は「南雲デンキ自転車部」の集団に遭遇し、落車してしまう。この事件をきっかけに、彼の運命は大きく変わっていく……。
物心ついたころからの自転車好きの少年、頑固で自転車が大嫌いな祖父、南雲デンキ自転車部ジュニアクラブの個性的なメンバーや監督などなど、すごくわかりやすいキャラクター造形で、テンポよく物語は進む。主人公に感情移入しながら、つい「頑張れ!」と応援したくなるという、なんというか、すごく素直でストレートな小説だ。やっぱりジュヴナイルはこうじゃないとね。
読んでいくうちに、自転車ロードレースにおいて洋には特殊な才能があること、それが父ゆずりのものらしいこと、祖父が自転車を嫌う理由に、父の死が関連していることなどがわかってくる。ああなんという定番の展開! でも、だからこそおもしろいのだ。洋が父の本当の姿を知るのはいつなのか、頑なな祖父は自転車を認めてくれるのか、そして洋の才能はどう開花していくのか……この巻にはまだ描かれないはるか未来のことがどんどん気になっていく。
だから、願わくば早いとこ「Ⅱ」を出してほしいのだ。「Ⅰ」の初版は11月。そろそろ続きを出してもらわないと、移り気な中高生は忘れてしまいますよ! コンスタントに続きが出て、きれいに完結してくれることだけが、読者の望みだ。こんな状態でお預けをくらっていては落ち着かない。
それにしても、川西蘭がこういうタイプのスポーツ小説が書ける人だとは思っていなかったのでちょっと驚いた。ま、私が読んでいたのはデビュー作から数作だけだから、当時の印象はまったくあてにならないだろうけど。
ちなみに本作は、ここ1、2年で急速に本屋の平台に侵食してきた「ピュアフル文庫」(出版社も耳慣れないところ)の一冊。他のラインナップを見るに、いわゆるジュヴナイル文庫のようだ(ライトノベルとはちょっと違う印象)。自転車小説にそれほど需要があるのかどうかはわからないが、本屋によっては平積みになっていたりもする。そういえば、近藤史恵の「サクリファイス」もけっこう版を重ねているみたいだし、もしかしたら自転車小説の流れが来たのかも!?
「南雲デンキ」みたいな会社があったら、日本のロードレースももっとメジャーになりそう(笑)。何せ、学校経営で有能な選手を発掘し、自転車レースを主催し、さらには自転車メーカーでもあるのだから。なんだか夢みたいな設定で、それもちょっと好み。
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コメント
ちょうど愛媛に行ったとき(07年最終節,愛媛vs湘南)に読んでました.フェリーの中で読んでいた,という周辺環境のほうを覚えています(笑
相当にストレートな小説ですよね......王道.
ある意味でRPG的というかなんというか.
個人的には,もう少し伏線など入れて,ボリュームを増してもよいのでは,と思いました.
あと,先日はFC東京さんとのTMがあったそうで...
阿部吉朗がゴールを決めたみたいですね.
湘南のFWの層の中で,今年彼がどれだけ出れるのか,どれだけやれるのかはまだ判りませんが,あの広島戦(ですよね?)のスーパーゴールを見て以来気になっていた選手なので,応援したく思っています!
投稿: shiro | 2008/02/15 22:13
shiroさん、コメントありがとうございます。
小説、ともかく完結させてほしいですよね。わかりやすすぎるのは、(ジュヴナイルという性格上)わざとやっているような気もしますし。
湘南との練習試合、寒くて雨がやまなかったので観戦はあきらめました(笑)。阿部ちゃん、ジャーンについで湘南に欠かせない選手になってほしいものです。
投稿: つぴぃ | 2008/02/16 03:03