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2008/07/05

「ただマイヨ・ジョーヌのためでなく」

ただマイヨ・ジョーヌのためでなく」が文庫になったので、買ってまたまた読んでしまった。

いうまでもなく「ツール・ド・フランス」を7連覇したランス・アームストロングの自伝。ほとんどの本は1度しか読まないのだが、これは何回読んだだろうか。ことあるごとに読み返してきた本なので、コンパクトな文庫になったのはとてもうれしい。これで読む前にいちいち探さないでもすむはずだ(と思いたい)。

最初に読んだのは、ハードカバーが出版された直後だったと思う。このころはまったく自転車に興味はなく、「ツール・ド・フランス」というレースについても「自転車で走りながらトイレまですませるらしい」という程度の認識しかなかった。「マイヨ・ジョーヌ」と聞いてもピンとこなくて、「黄色いジャージとは何ぞや?」と自転車用でないジャージを想像していたりして。購入理由は「癌の闘病記」だったからだ。

この時期、私は「癌本」しか読んでいなかった。99年夏に母が肝臓癌で亡くなり、翌年夏には父の肺癌が判明……ともなればいたしかたない。しかも両者とも発覚時には余命告知されるほどの状態だったので、治療法を探すというよりは「どうすれば残りの人生を悔いなく送れるか」とか「家族はどのように接すればいいのか」という方面に興味が向く。結果的に、癌の種類を問わず、さまざまな人の「闘病記」を手当たり次第に読んでいたのだ。

「闘病記」のうち95%くらいは、本人の死をもって完結してしまう。だが、ランスの本は違った。ものすごく深刻な状態だったのに、回復しただけでなく、何やらスゴい大会(ツールについてはこの程度の感覚)で優勝してしまったのだ。最初に読んだときは、自転車に関する章はすっ飛ばし、ひたすら「闘病」の部分だけを読んだことを覚えている。希望をもち続けることによって、もしかしたら奇蹟は起きるのかも!?と、ちょっとだけ勇気と元気を与えてもらえた本だった。

次にこの本を引っ張り出したのは、それから3年後。最初のクロスバイクを買って自転車に乗り始め、今年はツール・ド・フランスを最初から見てみようかな~と思った年だった。その前からジロ・デ・イタリアなども見始めていたけれど、どうもステージレースの楽しみ方がよくわからない。各ステージで優勝した選手がなぜ総合優勝にならないのかとか、アシストの選手は黒子に徹していて不満はないのだろうかとか、説明されても納得しきれないところがあった。

そんなときに、ランスの自伝を読むとよくわかると、自転車師匠に教えてもらったのだった。そういえば、その本ならもっていたはず……と、本棚をひっくり返して探し、癌本の棚に埋まっていたのを発見。改めて、今度は自転車レースの部分もしっかり読んだ。こんなにわかりやすく、自転車レースについて教えてくれている本はない。この本を脇に置いてランスの5連覇をTVで満喫し、宇都宮のジャパンカップへ行く前には「そういえばランスも参加したことがあったな」とまたも読み直し……と、ことあるごとにちょこちょこと読み返してきた。

今回、文庫になったことで久しぶりに通して読んだのだが、やっぱり引きこまれてしまった。出生の話(父親がいないこと)や無鉄砲なレースを繰り返していたころのこと、契約を切られたコフィディスへの恨みごと、体外受精による出産の話など、ストレートというかかなり赤裸々に語られていて本当におもしろい。これは、自分の力を過信する傍若無人な若者だった著者が、ガンによってリセットされて、一から(マイナスの地点から)成長していった記録、といってもいいかもしれない。

ツールでは前人未到の記録を達成したランスだが、さまざまな理由から彼が今でも批判の対象になっていることは知っているし、彼のことを「嫌い」と公言する自転車ロードレースファンが多いことも多少は理解できる。でも、彼が絶望の淵から奇跡的に生還したことも、7連覇という記録も事実なのだ。

ランスが引退してから、ツール・ド・フランスはまるで「ランスみたいなヤツを再び出してはならない」みたいな感じで、どんどん変な方向になってきているような気がする(もちろんドーピング問題が第一なのだけど)。06年も07年も、マトモな形で総合優勝が決まることはなかったし、今年もどうなることかわからない。有力選手が怪我や体調不良以外の理由で姿を消すことなく、最後までフェアなレースが見られるといいのだが……。

ちなみに、文庫版はハードカバーをそのまま文庫にしたもの。だから、訳者あとがきも2000年の段階で終わっている。できれば、その後のランスについて言及した解説が付けばよかったのだけど……。でも、7連覇はともかくとして、あんなに熱々だった奥さんとの離婚とか、今はUSポスタルサービスもディスカバリーもなくなっちゃったとか、そういう話になっていくと収拾がつかなくなっちゃうかもしれないし。本に記述された段階できれいに終わっているほうがいいのかもしれないね。

で、今のランスがどんなことをしているかについてはまったく知らないのだが、何となく将来は政治家になるような気がする。なんか似合ってるような!?


*「毎秒が生きるチャンス!」は、この自伝の続編ともいうべき内容。レースについてはこっちのほうが詳しい。今読み返すとおもしろいんだけど、もう絶版みたい……。

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コメント

ランス本まだ読んでいないのですが,ツールで彼が勝利するのを当時の深夜テレビで見ました。多分1998年か99年の総集編だったと思います。
ガンを克服し,表彰台で子供を抱くシーンが印象的でした。

ところで,つぴぃさんのムクゲの写真に触発されて矢川緑地保存地区へ取材に行ってきました。
残念ながら私には発見できませんでしたよ・・・。
しかし,涼しい雑木林と矢川の澄んだ水には癒されました。蚊に刺されましたが・・・。

投稿: nekki5149 | 2008/07/05 16:19

こんばんは
未知谷で96年に出版されたツールドフランス物語の中の冒頭の一章で93年ツールに初参加の新人ランスを取り上げていたのは著者がまさに慧眼だったのでしょうね。もっとも初参加でステージ1勝を上げているので注目しない訳にはいかないでしょうが。

昔から強すぎるチャンピオンは不人気な事がままあるようですが、彼の地のランスは日本の朝青龍問題のような所もあるんでしょうか。時期的に米・欧が政治や経済でゴタゴタしていたのも影響があったのかもしれません。

投稿: 山猫の店主 | 2008/07/06 23:56

nekki5149さん、コメントありがとうございます。

矢川緑地、確かに蚊はいますが夏は涼しくていいところですよね。夏のお楽しみといえば、湧き水ポイントで足を冷やすことなのですが、ぜひやってみてください。すごーく気持ちがいいですよ~。

ランス、初優勝が99年でしたので、きっとそれをご覧になったのでしょうね。

投稿: つぴぃ | 2008/07/07 01:57

山猫の店主さま、コメントありがとうございます。

なるほど、ランスと朝青龍問題、似ているかもしれません。強すぎるとやっかみもあるのでしょうね。

私もふだんは判官びいきの気がありますので、自転車ロードレースファンになってからこの本を読んでいたら「アメリカ人のくせに~」と思っていたかもしれません(そういう私は日本人なのですが(笑))。偏見も何もない状態のときにこの本を読むことができたのはよかったと思います。

投稿: つぴぃ | 2008/07/07 02:01

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