「シャカリキ!」の映画を見てきた。
原作は、曽田正人による自転車漫画の傑作。だがこの映画は、タイトルと登場人物の名前が偶然にも漫画と同じというだけで、まったくの別物だと思って見るほうが精神的によろしいだろう。
亀ヶ丘高校の新入生・野々村輝は、生来の自転車(坂)バカ。ふとしたきっかけから、廃部寸前の自転車競技部に入部したテルは、ロードレースの基本も知らぬままに自転車レースに出場することに。チームリーダーの鳩村や、ライバル・鳳帝高校のユタと出会い、誰よりも早く坂を登りたいと願うテル。そんな彼を待っていたのは、石渡山市民ロードレースの激坂だった!……というのがストーリー。
原作でいえば、序盤の石渡山のロードレースの部分がメインで、エピソードとしては「コースに画鋲が撒かれていて、テルがフレームをかついで登っていく」というところだけがかろうじて映画に残っている程度。キャラクターの関係図も何もかも違うので、原作を念頭において見てはいけないのである(「漫画の映画化」の成功例を見たければ、「デトロイト・メタル・シティ」がおススメ)。
では、どういう映画だと思えばいいのかというと、しいていえば「正統派男性アイドル映画」「高校生の青春スポーツもの」というところだろうか。
某所で教えてもらうまでまったく知らなかったのだが、この映画でメインの3人を演じる俳優たちは「D-BOYS」と呼ばれるユニットのメンバーなのだそうだ。さっそくWikipediaで調べてみると、「ワタナベエンターテインメント所属の若手男性俳優集団」とある。ああ、それで製作に「ワタナベエンターテインメント」が入ってるのね。だからアイドル映画みたいなつくりで、そういう出来なのね……と、一気にいろいろと「腑に落ちた」のであった。
つまり、自転車好きや原作の「シャカリキ!」ファンを念頭においてつくられたのではなく、「D-BOYS」ファンの女の子たちのための映画であって、彼らが苦しそうに坂を登る表情を見て萌えるのが正しい見方なのかもしれないのだ。
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そう思って見てみれば、それほど悪い映画ではないと思う。救いは、主役陣の頑張り。彼らはアイドルかもしれないけれど、すごく一所懸命に自転車に乗っていて好感がもてる。3本ローラー台にも乗っているし、かなり頑張ったのだろう。プロロードレーサーで実際に指導にあたった三浦恭資さんのブログにはそのときのエピソードが書かれているが、走行シーンを見ていてもそれほど違和感はない。
役者陣の頑張りに比べると、スタッフ陣(脚本とか……)のそれはちょっと負けてしまったのかもしれない。最後まで見ても、結局、自転車部が復活できたのかどうかもわからないし、女子マネージャーとの恋の行方もわからないまま。ストーリーは宙ぶらりんのまま終わってしまうのだ。
激坂を走るシチュエーションは、演出によっていくらでも迫力を増すことができるだろうし、自転車に乗る楽しさをもっと映像で見せてもらいたかったというのも正直なところ。先日のブエルタの13ステージで、20%を越える激坂をひらひらと登っていったコンタドールを見てしまうと、もう何を見ても……という気分になるのは仕方のないことだけれど。
個人的におもしろかったのは、石渡山の映像。どう見ても「宇都宮森林公園」の上に、アルプスのような岩山がどかんと乗っかっている風景には爆笑しそうになった。あれは自転車で登るというよりもロッククライミングするような山だね(笑)。
さらに、季節感のなさにも驚かされた。物語は高校入学直後にはじまり、9月の石渡山レースでクライマックスを迎えるのだが、風景はずっと3~4月のまま。ヘタくそだろうが上達しようが、背景にはつねに桜やモクレンやツツジが咲いているので現実感に乏しい。
そういえば、9月の石渡山にも桜が咲き乱れているしなあ……そっか、石渡山はものすごい高山なので、9月でも寒くて桜が咲いていて、観客が冬のような格好をして観戦に来ていたのかもしれないね(笑)。
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さっぱり誉めていないようでもあるが、実は、覚悟していたほど悲惨なものではなく、それなりにおもしろかった。Jスポーツで流れていたCMだけを見て拒絶反応を示しているようではイカン、先入観で判断せずに、ちゃんと金を払って見ておかなくては!と反省したしだいである。
今回鑑賞した立川シネマシティでは、わずか2週間で上映終了。今週、見ておいてよかった……。
あ、10月に「ジャパンカップ」を見に行く人は、道路上にまだ映画用のラクガキが残っているのかどうか、見てきてくださいね(鹿島戦を優先させるため、宇都宮には行かないのです)。
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