「オレンジの呪縛」を読む
少し前に、「オレンジの呪縛 -オランダ代表はなぜ勝てないか?」を読みました。
オビにいわく、
なぜオランダの選手、監督、協会は、ピッチ外のことで力を使い果たしてしまうのか?
なぜオランダ人は、成功につながらないことが明らかなのに、間違った監督を選ぶのか?
なぜオランダ人は、絶対に蹴らせてはいけない選手にPKを任せるのか?
なぜオランダ代表は、格下相手に気を抜いたプレーをしてしまうのか?
なぜオランダ人は、何も問題が起きないとかえって不安になり、わざわざトラブルを作り出すのか?
そしてなぜオランダ人は、これらの問題について、自ら考えることをしないのか?――
……こう書いてあれば、「そうそう、私もそう思ってたんだよ! どうしてなんだろう?」と思うじゃないですか。そこで、その答えを見つけるべく読んでみたのです。さて、同じように感じている皆さまのために、太っ腹の当ブログはこの本を読んで得られた回答をお知らせしちゃいましょう。それは……
「オランダ人だからです」
えーっ!? ハードカバー381ページ、1995円かけて読んで、それかよ~!?(ズルッ)
◆
誤解のないように申し上げれば、本はとてもおもしろく刺激的で、初めて知ることがたくさんありました。ただ、オビにあるような「サッカー論」として読むと、もしかしたら肩透かしをくらってしまうかもしれません。これは、英国人ジャーナリストが膨大なる取材によって明らかにした、フットボールという切り口から見た「オランダ論」なのですね。
狭い国土に低い土地という特有の地形や、その歴史はオランダフットボールに何をもたらしたのか、W杯やユーロでの惜しい敗戦をオランダ人たちはどう見ていたのかといったことが、選手や監督自身、オランダ人著名アーティストや評論家などへのインタビューから明らかになっていきます。
確かに「オランダ代表の敗退」の要因は、まさに彼らがオランダ人であるがゆえなのですが、その奥には何があるのかを深く探っていく過程に、この本の真骨頂があるのです。日本語版タイトルとオビの惹句に関しては「中身と合ってないじゃん」と文句をつけるか、「中身とかなり違うけど、うまいことつけたものだな」と感心するか、それは人それぞれだと思いますが。
それにしても改めて思い知らされるのは、ヨハン・クライフという選手の偉大さ。オランダサッカー界にあっては、まさに「紀元前」(B.C.=ビフォア・クライフ)とそれ以降くらいに違うといっていいのでしょう。私はリアルタイムで彼の活躍を見ていなかったので何とも歯がゆいのですが、終章にあるように、今もなお大きな影響力をもつクライフが亡くなった後にオランダサッカーがどうなっていくのか、それがものすごく気になってしまいます。
◆
サッカーというスポーツを切り口にしてオランダという国やオランダ人について掘り下げていくのが本書なのですが、はたして日本でこんな本が生まれる可能性があるのでしょうか。
その昔、野球を切り口に日本人論を展開した「菊とバット」(ロバート・ホワイティング著)が発表されたことがありましたが、サッカー版のこうした本はまだ発表されていません。そういう本が登場するころに初めて、サッカーは日本に根付いたといえるようになるのかも……。ジェレミー・ウォーカーさんあたりが出してくれないかな。
(検索してみると、「菊とバット」は最新情報を盛り込んだ完全版が出ているようですね。読んだのがあまりに昔なので、再読してみるとおもしろいかも)。
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